EMC技術ノート

2023/10/06

プリント回路基板におけるコモンモード放射 – ②

1. はじめに

プリント回路基板におけるコモンモード放射 – ① ~ 基板のグラウンドがアンテナとして作用する? ~」では、コモンモード電流と基板のグラウンドプレーンにコモンモード電流が発生するメカニズムを紹介しました。「プリント回路基板におけるコモンモード放射 – ②」では基板の配線レイアウトとコモンモード電流に起因して発生するEMIの特徴を紹介します。

2. グラウンドプレーンのサイズや信号配線のレイアウトとコモンモード放射レベルの関係

プリント回路基板におけるコモンモード放射 – ①」では図1 (a) に示すように、基板(グラウンドプレーン)の幅が有限の場合に、信号配線を流れる電流により発生した磁界の一部がグラウンドプレーンを囲むような閉ループをつくり、コモンモード電流が発生するメカニズムを紹介しました。このメカニズムによれば、図1 (b)、図1 (c) に示すようにグラウンドプレーンの幅が狭い基板や、グラウンドプレーンの端部近くに信号配線がレイアウトされた基板ではグラウンドの裏面に回り込む磁界が増加しやすく、コモンモード電流が増加して、EMI放射レベルが高くなることがイメージできます。ここではグラウンドの幅や信号配線のレイアウトとコモンモード放射の関係を見ながら、このメカニズムを検証します。


(a) 有限幅のグラウンドプレーンにコモンモード電流が誘起されるイメージ

(b) 幅狭のグラウンドプレーン            (c) グラウンドプレーン端部に信号配線が配置された構造
図1 グラウンドプレーンの構造と磁界分布

2-1. グラウンドプレーンの幅の影響

図2は参考文献 (1) を参照して異なるグラウンドプレーン幅を持つプリント回路基板の放射電界強度レベル(3 m 距離)をプロットしたグラフです。基板にはディジタルICと信号配線で構成された回路が搭載されており、信号配線部分のグラウンドプレーンの幅はそれぞれ、0.5、5、10、20、40、100 mm(IC搭載部の幅は100 mmで共通)です。それぞれの基板の放射電界強度の最大値がプロットされていますが、グラウンドプレーンの幅が狭くなるほど、放射電界レベルが高くなることがわかります。


図2 放射EMI特性のグラウンドプレーン幅依存性

2-2. 基板(グラウンドプレーン)端部の影響

一方、信号配線のグラウンドプレーン端部へのレイアウトの影響を、参考文献 (2) を参照して確認しました。結果を図3に示します。この基板では、同一構成の5つのディジタル回路を基板(グラウンドプレーン)の端部から異なる距離にレイアウトしています。それぞれの回路を個別に駆動したときの放射電界強度の相対的な値をプロットしたところ、端部に近い配線を有する回路からのEMI 放射レベルが高くなることがわかります。


図3 信号配線のグラウンドプレーン端部からの距離と放射EMI特性の関係

以上の説明で、プリント基板グラウンドにコモンモード電流が発生するメカニズムとその特徴、および、同電流によるコモンモード放射のイメージを理解して頂けたでしょうか?

本篇の最後に、プリント回路基板の回路実装レイアウトに依存したコモンモード放射の特徴を表す別の例を紹介します。

3. コモンモード放射の基板配線レイアウト依存性(参考文献 (3))

図4にレイアウトの異なる2種類のプリント回路基板とその3 m距離における放射EMI特性を示します。どちらの基板も発振子、ディジタルIC (FPGA)、信号配線、終端容量で構成されたディジタル回路を搭載していますが、その配置は90度異なっています。基板Aは基板長手方向に平行、また基板Bは短辺方向に平行に信号(電流)が流れるレイアウトです。この基板は4層(信号配線層 – グラウンド層 – 電源層 – 信号配線層)ですが、部品は片面(第1層)のみに搭載され、また、適切なデカップリング処理を施し、電源層(第3層)の放射EMIへの影響は極力低減しています。

それぞれの基板のディジタル回路駆動時のEMI放射特性を見ると、基板Aは300 ~ 600 MHzにおいて、50 ~ 60 dBμ V/m の放射電界が観測されるのに対し、基板Bの同周波数帯の放射電界は基板Aに比べて、6 ~ 7 dB低く、同一構成のディジタル回路を搭載しているにもかかわらず、EMI放射特性が異なることがわかります。


図4 同一構成のディジタル回路を異なるレイアウトで搭載したプリント回路基板の放射EMI特性

この放射特性の違いの理由を調べるため、電磁界シミュレータ(FDTD (Finite Difference Time Domain))法による解析を行いました。図5に解析モデルを示します。基板はグラウンドプレーンを導体板、ディジタル回路はグラウンドプレーンを帰路とする電圧源と配線で構成した単純なモデルで構成しています。それぞれの基板モデルに対して、基板Aでレベルの高い放射が観測された570 MHzにおける基板グラウンドプレーンより10 mm下の面における電界強度を計算しました。図6に電界強度の分布と同分布から導かれる電気力線の振る舞いを示します。

基板Aではグラウンドプレーンの長手方向の両端で電界強度が高くなるのに対し、基板Bでは短辺方向の両端で電界強度が高くなります。また、電気力線の様子から、基板Aがグラウンドプレーンの長手方向が、また、基板Bではグラウンドプレーンの短辺方向がそれぞれダイポールアンテナとして作用していると考えることができます。基板Aの長さ210 mmは570 MHzを半波長とする長さ(約260 mm)に近く、基板Bに比べ、アンテナとしての効率が高くなります。

なお、論文を中心とするこれまでの報告では、基板幅やレイアウトにもよりますが、基板の長さを半波長とする周波数に対しておよそ0.7~0.8倍の周波数においてEMI放射レベルはピークとなる傾向が報告されています。例えば、前述の基板A(グラウンドプレーンの長さは210 mm)の半波長に相当する周波数は約710 MHzですが、放射電界強度のピークは 約570 MHzで観測されています。


図5 グラウンドプレーンとディジタル回路の電磁界解析モデル
図6 グラウンドプレーン近傍の電界強度分布と同分布から導かれる電気力線
参考文献
  • (1) 岡、宮崎、内田、仁田、「プリント基板からの放射エミッション抑制効果に対するグラウンド導体幅依存性」、電子情報通信学会論文誌Vol. J82-B No.8 pp.1586-1595 1999年8月
  • (2) 原田、楠本、矢口「プリント配線板設計用EMIルールチェックツール」、エレクトロニクス実装学会誌 Vol.14 No.6 pp.477-484、2011年10 月
  • (3) 佐々木、原田、栗山、「プリント回路基板からの不要電磁放射の信号配線レイアウト依存性」、電子情報通信学会論文誌B 、Vol. J90-B No.11 pp.1124-1134 2007年11月
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