EMC技術ノート

2023/12/26

リバブレーションチャンバー、その特性とは?

1. はじめに

リバブレーションチャンバー(Reverberation Chamber : RC)はスターラーと呼ばれる金属板で構成された電波散乱体を回転させる機構を備えたシールドルームです(図1)。この名称は室内音響学に由来する名前で、文献では残響室、モード攪拌室、またはモード同調室として知られています。

RC内では「放射イミュニティ試験」と「放射エミッション試験」を行うことができます

図1 リバブレーションチャンバー

2. 均一な電界強度を得るためのメカニズム

シールドルーム内に放射された電波は壁面において反射を繰り返しながら(多重反射)、徐々に減衰していきます。このとき、特定の周波数において部屋の寸法に依存した固有モードと呼ばれる「共振」が発生します。図2にモードの発生する周波数とそのときの電界強度の分布の例(54.3 MHz、108.7 MHz、169.8 MHz)を示します。共振周波数ではシールドルーム内の空間に強い電磁エネルギーが蓄えられるため、「放射イミュニティ試験」では比較的小さい電力で高い電界強度が得られる、また、「放射エミッション試験」では感度のよい測定が可能となるなどのメリットがあります

一方、図2の電界強度の分布に示すように、共振状態においてはシールドルーム内に電界強度の強いエリアと弱いエリアが生じます。このような環境で試験を行った場合、その結果はEUTやアンテナの設置位置に依存することになり、正しい試験を行うことができません。そこで、電磁波を散乱させる機能のあるスターラーを回転させてシールドルーム内の電磁界の状態を変化(攪拌)させ、最終的にEUTを設置する「テストボリューム」内の電界強度が均一となるようにします。


図2 共振の発生する周波数とモード(電界強度)の例
シールドルームサイズ:長さ6.9 m、幅4.6 m、高さ4.0 m

図3は「テストボリューム」における電界強度がスターラーの回転によってどのように変化するかを2.45 GHzを中心とする8 MHzの帯域幅で見たものです(画面左下の再生ボタンを押下して動画をご覧ください(25秒))。各周波数(モード)における電界強度はスターラーの角度に依存して変動しますが、その最大値は、最終的に周波数によらずほぼ一定となることがわかります

このような電波の攪拌を利用した試験方法にはいくつかのメリットがあります。例えば、「イミュニティ試験」をALSE(absorber lined shielded enclosure: 電波暗室)で実施する場合、図4(a)に示すように、EUTのアンテナに面した方向からの到来電波に対するイミュニティ評価ですが、リバブレーションチャンバー(図4(b))内では、様々な方向から到来する電波に対してのイミュニティを評価できるため、実際の使用環境に近い条件下での試験が可能です。リバブレーションチャンバーでは、直接EUTに電波を照射しないようアンテナはチャンバー壁面に向けて設置します。

図3 スタラーの回転による電界強度の変化(動画、左下再生ボタンをクリック)
    (a) ALSE(電波暗室)                     (b)リバブレーションチャンバー 図4 「ALSE(電波暗室)」と「リバブレーションチャンバー」におけるイミュニティ試験時の電波照射の形態

また、「放射エミッション試験」に対してもメリットがあります。例えば、電源ケーブルや信号ケーブルを接続したEUTを評価する場合、電波暗室では放射EMIはケーブルのレイアウトに大きく依存します。図5は、コムジェネレータと呼ばれる標準電波発生器のアンテナを垂直、水平、および45°に設定して配置したとき の受信レベルをプロットしたものです。

図5 コムジェネレータを発生源とする放射エミッションの測定結果(ALSE(電波暗室)とリバブレーションチャンバーの比較)

ALSE(電波暗室)による測定では、コムジェネレータのアンテナの角度、測定する電波の偏波(水平偏波、垂直偏波)に依存して測定される電界強度が異なるのに対し、リバブレーションチャンバーによる測定ではその依存性が小さいことが分かります。これはリバブレーションチャンバーが原理的に放射電力の測定となっているためです。この性質を利用することで、筐体シールドやコア、ノイズ抑制シートの適用などのケーブルに対するノイズ抑制対策の効果を容易に評価することできます。

3. RCの周波数特性

リバブレーションチャンバーで試験可能な周波数帯は、シールドルームのサイズに依存します。シールドルームの共振周波数 f_r は、部屋の長さ lx 、幅 ly 、高さ lz を用いて次式で表されます。


ここで、k、m、n( = 0、1、2・・・)はそれぞれ、長さ方向、幅方向、高さ方向の電界強度のピークの数であり、二つ以上が同時に0となる組み合わせはありません。

例えば、図2に示すシールドルームの場合、最も低い共振周波数は39.2 MHz ( k = 1, m = 1, n = 0 )です。共振周波数は低い周波数帯では出現頻度が低く、高い周波数になるにつれ出現頻度が高くなります。また、共振周波数はスターラーの回転により変動するため、共振周波数を中心として一定の周波数帯域をカバーすることができます。しかしながら、低周波数帯では出現頻度が低いため、スターラーの回転によって間の周波数帯をカバーすることはできません。そのため、リバブレーションチャンバーにはLUF (Lowest Usable Frequency)と呼ばれる試験可能な周波数の下限が設けられています。図2に示すサイズのリバブレーションチャンバーのLUFはおおよそ120 MHzです。


本記事はここまでとなります。リバブレーションチャンバーには上記のようなメリット・特性があることがわかりました。今後需要が増えていくと考えられるリバブレーションチャンバーを利用した試験、本記事を参考に検討してみてはいかがでしょうか。

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