EMC技術ノート

  • HOME
  • EMC技術ノート
  • ALSE法(放射妨害波試験)の適合検証において低周波帯(150 kHz~30 MHz)で見られる現象とその特徴
2024/05/13

ALSE法(放射妨害波試験)の適合検証において低周波帯(150 kHz~30 MHz)で見られる現象とその特徴

1. はじめに

EVシフト、先進運転支援システム(ADAS)やインフォテイメントの充実など、近年の自動車は高度に電子化された機器と化しており、車載機器のEMCは増々その重要性を増しています。車載機器のEMC試験のうち妨害波(Emission)に関わる試験はCISPR 25に規定されており、放射妨害波試験(Radiated Emission: RE)はALSE(Absorber-lined shielded enclosure)において、周波数150 kHz~5925 MHz[1]で行います。本技術ノートではALSEの適合検証において低周波帯で見られる現象と、その特徴を紹介します。

2. ALSE試験

ALSEは壁と天井に電波吸収材を装着したシールドルーム、すなわち半電波無響室です(図1)。ALSEには大きさそのものの規定はありませんがアンテナや供試機器(EUT)と電波吸収体のあいだには1 m 以上の距離が必要となること、また、壁面に装着する吸収材の性能は70 MHz〜5925 MHzの周波数範囲で6 dB以上あることなどが規定されています。

放射妨害波試験は非導電性の試験台の上にグラウンドプレーンとして銅や亜鉛メッキ鋼板などの金属板を敷き、その上にEUTを配置して行います。グラウンドプレーンは図2に示すように接地ストラップを床面に接続(床接地)、もしくは壁面に接続(壁接地)し、両者の間の直流抵抗が2.5 mΩ以下となるようにします。妨害波の受信は周波数帯毎に適切なアンテナを用いて行います。表1に用いる代表的なアンテナを示します。EUTと妨害波受信アンテナ間の距離は1mです。


図1 車載機器のRE試験を行うASLE(Absorber Lined Shielded Enclosure)

  • (a) 床接地
  • (b) 壁接地

図2 グラウンドプレーンの接地構造
表1 妨害波の受信に使用するアンテナ
周波数帯 150kHz~30MHz 30~200MHz 200~1000MHz 1000MHz~
アンテナ モノポールアンテナ バイコニカルアンテナ 対数周期アンテナ ホーンアンテナ、
対数周期アンテナ

3. ALSEの特性の検証と150 kHz~30 MHzの測定における基準値の導出

ALSEの特性は、図3に示すようにグラウンドプレーン上に置いた長さ50 cm のロングワイヤアンテナを基準放射源とし、その電界強度を受信アンテナで測定します。こうして得られた電界強度とシミュレーションによって理論的に求められている基準値と比較して検証します。測定された電界強度が90 % 以上のデータ・ポイントにおいて基準値±6 dB の範囲にある場合、そのALSE は要求に適合していると判断されます。

ところで、本検証においては受信アンテナとしてモノポールアンテナ(ロッドアンテナ)を使用する150 kHz~30 MHzの周波数帯で、しばしば測定された電界強度と基準値との間に大きな差異が生じること、また、異なるALSE間でその変動が大きいことが知られています[2][3].本技術ノートでは、この検証時の測定結果と基準値との間に発生する差異の要因について説明します。

前述のように150 kHz~30 MHzの周波数帯での検証は、モノポールアンテナを用いますが、このアンテナのグラウンド(カウンタポイズ)は図4(a)に示すようにグラウンドプレーンを延長したものです。一方、比較検証に用いる電界強度の基準値は図4(b)に示すように,ALSEやOATS(Open area test site:オープンサイト)の床面のように極めて広いグラウンドプレーンの上にワイヤアンテナとモノポールアンテナを配置した構成においてシミュレーションにより求めており、両者の間にはグラウンドプレーンの形状(特に面積)に大きな違いがあります。このグラウンドプレーン構成の違いが変動の要因と考えられています[2],[3]

それでは、この差異について、弊社「TSUKUBA AUTOMOTIVE LAB」のASLEにおける評価の例を紹介しましょう。


図3 ロングワイヤアンテナ
  • (a) 実際の試験における配置
  • (b) 基準値を求める際の配置

図4 150 kHz~30 MHzの計測におけるグラウンドプレーン配置

4. ワイヤアンテナを放射源とする150 kHz~30 MHzの電界強度特性

図5に下記の3通りのアンテナレイアウトの場合における電界強度特性を示す。


(a) 大型電波暗室の床面(グラウンドプレーン面積 13.5 m×20.8 m)にワイヤアンテナとモノポールアンテナを設置

(b) ALSE内のグラウンドプレーン(壁接地)上にワイヤアンテナとモノポールアンテナを設置

(c) ALSE内のグラウンドプレーン(床接地)上にワイヤアンテナとモノポールアンテナを設置


大型電波暗室の床面(グラウンドプレーン)上にアンテナを設置した場合、150 kHz~30 MHzの周波数帯において、ほぼ基準値に等しい電界強度が得られるのに対し、床接地のグラウンドプレーンではおよそ10 MHz付近から基準値からの差異が生じ始め、24 MHz以上の周波数帯では基準値±6 dBの許容範囲を超えます。一方、壁接地のグラウンドプレーンでは対象とする周波数帯で基準値との差は±6 dB範囲にあることがわかります。なお、床接地の配置においても試験周波数全体では90 % 以上のデータ・ポイントで基準値±6 dB 以内の要求は満足しています。

壁接地においても電界強度の特性は壁面に装着されている電波吸収体の特性に依存します。吸収特性が十分でない場合には±6dBを超える場合があるので注意が必要です[4]


  • (a) 大型暗室内グラウンドプレーン上 
  • (b) 床接地 
  • (c) 壁接地

図5 グラウンドプレーンの接地構造別電界強度特性

[1] CISPR 25 ed5

[2] 鵜生 他,「車載機器用EMC試験サイトの相関評価(第2報)」信学技法EMCJ 2018-91,2018年12月

[3] C. Carobbi, “E-Field Measurements below 30 MHz in Military and Automotive EMC Testing”,

MO-AM-2 IEEE Nat. Symp. 2018, Aug.2018

[4] 原田 他,「妨害波測定用暗室の評価方法における課題と考察」2019年電子情報通信学会ソサエティ大会 BI-4-6 2019年9月

東陽EMCエンジニアリングでは、様々な電子・電気機器のEMC試験(一部、電気試験含む)を行っております。
経験豊富なエンジニアにより、お客様それぞれのご希望に沿って柔軟に対応致します。
お客様が希望する試験に対応可能か、希望する試験内容がどのくらいの日数・費用がかかるのか知りたい、など随時お問い合わせをお待ちしておりますので、お気軽にご連絡下さい。

CONTACT

お問い合わせ

お問い合わせ・ご相談などはこちら