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2023/05/30

ディジタル/アナログ回路混載プリント回路基板のグラウンド設計

1. はじめに

高速で動作するディジタル回路と敏感なアナログ回路が混載されたプリント回路基板(PCB: Printed Circuit Board)のレイアウトのガイドラインとして、ディジタル回路とアナログ回路のグラウンドの分離が推奨されることがあります。このガイドラインは長年の設計経験に基づいて作成されていますが、一方でグラウンドの分離に対する弊害も報告されています(参考文献 (1) – (3))。本技術ノートではディジタル回路とアナログ回路のグラウンド分離のメリットとデメリットについて説明します。EMI試験(伝導妨害波試験、放射妨害波試験、妨害波電力試験)の結果、規格を満足できず、その低減対策が必要となるケースがあります。回路レベルでの対策を実施する際には、波源となる回路を特定し、部品の追加やシールドなどの適切な対策が必要となります。本ノートでは、計測されたEMIスペクトルから問題となる回路や動作を推定する方法を紹介します。

2. PCBにおけるグラウンドの役割

先ず、はじめにプリント回路基板(PCB)におけるグラウンドの役割について考えてみましょう。

PCBには必ずグラウンドが存在します。一般に「グラウンド」は回路の基準となるポイントを示し、回路中のあらゆるノードの電位はグラウンドを0 [V]として定義されます。PCBのグラウンドにはこの電位の基準の他、回路の「リターン電流」の経路としての役割があります。

ディジタル回路やアナログ回路では図1に示すように、基板の配線を伝わって送信ICの出力端から受信ICの入力端に電流が流れることにより信号(電圧)が伝わります。このとき、グラウンドを通して受信ICから送信ICにリターン電流が流れ、閉ループが形成されます。


  • 送信IC
  •  → 
  • 信号電流(信号配線)
  •  → 
  • 受信IC
  •  → 
  • リターン電流(グラウンド)
  •  → 
  • 送信IC

単層の基板ではグラウンド配線がそのままリターン電流の経路となります。2層以上の層で構成された多層基板では、層全体をグラウンド(プレーン)とするケースが多いですが、このとき、リターン電流はどのような経路を取るでしょうか?


図1 回路における電流の流れ
図2 ベタグラウンドを持つ多層プリント回路基板(PCB)
図2に示すようにプレーン状のグラウンド(ベタグラウンド)に送信(Driver)、受信(Receiver)の二つのICが信号配線を通して接続された回路がレイアウトされている多層PCBについて考えます。 ベタグラウンドのように電流経路に自由度があるとき、電流は閉ループのインピーダンス Zl が最も小さくなるような経路で流れます。閉ループのインピーダンス Zl は信号配線とグラウンドプレーンの抵抗成分を Rl [Ω]、ループ面積に比例するインダクタンス成分を Xl [H]とすると、

で表わすことができます。ω は角周波数(=2π ff は周波数)です。低周波( ω ⟶ 0 )では Rl が支配的になるため、リターン電流は図3 (a) に示すように抵抗が最も小さくなるように受信ICと送信ICのグラウンドピンの間を最短、かつ広い幅で流れます。一方、高周波では ωLl の項が支配的なため、リターン電流は図3 (b) に示すように Ll すなわち閉ループの面積が最小となる信号配線直下のグラウンド上を流れるようになります。両者の境はおよそ 100 kHz程度とされており、低周波の場合を除き、グラウンドプレーン上の信号配線直下に集中してリターン電流が流れます。
(a) 低周波( Rl >> ωLl )                       (b) 高周波( Rl << ωLl
図3 リターン電流の経路

3. 回路のグラウンドを分離する理由(参考文献(3))

回路のグラウンドを分離する最も大きな理由は共通インピーダンスによる結合の低減です。2つの回路が電流経路の部分を共有する場合、共通インピーダンス結合が発生します。ノイズ源となる回路(Aggressor)と影響を受ける回路(Victim)の二つの回路を考えるとき、Aggressor回路から共有部分に流れ込む電流は、Victim回路に電圧を誘起します。図4に示すような回路構成では、二つ回路(回路1と回路2)はリターン電流の経路(インピータンス ZT )を共有しています。回路1(外側のループ)のリターン経路に電流( Iret1 )が流れるとき、リターン経路上には電圧降下 Vret1 = ZT Iret1 が発生します。この電圧は回路2の電源と負荷の両端に現われ、両回路間の結合が発生します。これを「共通インピーダンス結合」と呼びます。共通インピーダンス結合の影響は低い周波数(プレーン上の広い範囲をリターン電流が流れる)で駆動されている低インピーダンスな信号源を有する回路において重要となります。この共通インピーダンス結合を低減するためには、回路の共有部分のインピーダンスを減らすか、二つの回路を完全に分離して、電流経路を共有させないようにする必要があります。これが二つの回路のグラウンドを分離する根拠です。高電流回路のリターン経路としてグラウンドプレーンを使う場合や、小さなノイズ電圧に敏感に反応する回路によってグラウンドが共有される場合、「分離」は効果的です。

ただし、信号の周波数が100 kHz以上のとき、先に述べたようにリターン電流は信号配線の直下に集中して流れ(図3(b))、共通インピーダンスの影響は小さくなるため、二つの回路間の距離が物理的に離れているのであれば、敢えてグラウンドプレーンを分割する必要はないと言えるでしょう。


図4 二つの回路が同じ電流リターン導体を共有

一方で、グラウンドを分離することによる弊害も指摘されています。それは図5(b)に示すように異なるグラウンドプレーンを跨いで信号配線がなされる場合です。このケースではグラウンドプレーンを流れる電流はグラウンドの分離により分断され、シグナル・インテグリティ、EMIの両面で悪い影響を生じます。この問題は一般に「グラウンドプレーンにおけるスリット」として広く知られており、PCB設計時のEMIルールチェックの際にしばしば「配線ルール・エラー」として表示されるのでご存知の方も多いと思います。実際に参考文献(1)ではディジタル・グラウンドとアナログ・グラウンドを分離することによりPCBに接続したケーブルに誘起される伝導雑音電流が増加することが報告されています。

(a) 分離のないグラウンドプレーン         (b) 分離のあるグラウンドプレーン
図5 グラウンドプレーン上のリターン電流の振る舞い

また、図6に示すように、駆動電圧の異なる回路を一つのPCB上に搭載する場合を考えます。回路間の干渉を減らす目的でそれぞれの回路のグラウンドを分離すると、分離されたグラウンドに同じ電位は保持されません。そのため、それらの回路が基板上で互いに通信する場合、その電位差がノイズ電圧となり、接続されたケーブルを介して放射妨害波を発生させることになります。

図6 駆動電圧の異なる回路のグラウンドを分離したPCB

なお、ディジタル回路の動作に伴い装置の筐体(シャシ)と回路のグラウンド間に発生した電位(ノイズ電圧)に起因してケーブル( I/O )から放射されるEMIを抑制する手段として、図7に示すようにすべての I/O ケーブルの接続を一か所に集め、 I/O グラウンドとディジタル回路のグラウンドとを分割し、両グラウンドを一点で接続するPCBレイアウトが紹介されています(参考文献(4))。この構造ではディジタル回路のグラウンドに発生した高周波のノイズ電圧の I/O グラウンドへの伝搬を抑制することができますが、先の理由により、信号配線は必ず両グラウンドが接続されているブリッジ部分にレイアウトする必要があります。また、低周波の回路においても信号配線とリターン配線は常に隣接させておくことが重要です。

図7 EMI抑制を目的とするディジタル・グラウンドと I/O グラウンドの分離(参考文献(4))

4. まとめ

シグナル・インテグリティの分野のエキスパートである Eric Bogatin 氏はその著書において、

「グラウンドという用語の多用が,しばしばシグナル・インテグリティの設計で混乱を起こす.(伝送線路において)第2の導体をリターン線と呼ぶ習慣を身に付け,その意味を考えるほうがよほど賢い.シグナル・インテグリティに関する混乱の多くは,リターン電流の経路を認識した設計がしっかりとされていないことに起因する.」

と述べています(参考文献(5))。 リターン電流のコントロールはEMCにおいても重要なアイテムです。PCBのレイアウト設計を行う際、常にグラウンドはリターン電流の経路であることを念頭におくことが重要です。

本ノートでは慣例に従い「グラウンドプレーン」と表現しましたが、「リターンプレーン」と表現した方が適切かもしれません。

参考文献
  • (1) 前野、鵜生、加藤、藤原、「車載用電子機器からワイヤハーネスへ流出する伝導雑音電流の低減」、電子情報通信学会論文誌B、Vol. J90-B No.4 pp.437-441, 2007年4月
  • (2) B. Archambeault, “Proper Design of Intentional Splits in the Ground Reference Plane of PC Boards to Minimize Emissions on I/O wires and Cables” 1998 IEEE International. Symposium on EMC Record, Aug. 1998
  • (3) T. Hubing, 「自動車用のプリント回路基板にあるグランドは多すぎるのか?」Interference Technology 日本版No.67, pp.10-13, 2018年2月
  • (4) H. Ott 著 出口、他 監訳「詳解EMC工学―実践ノイズ低減技法」、東京電機大学出版局、第12章
  • (5) E. Bogatin 著、須藤 監訳「高速デジタル信号の伝送技術 シグナル・パワーインテグリティ入門」、丸善出版、第7章
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