EMC技術ノート

2022/11/09

電磁シールド – ③

「電磁シールド – ③」では、金属筐体における放熱用開口部におけるシールド効果の特徴を説明します。

4. 放熱用開口部からの電磁波の漏洩とシールド

機器の筐体を金属で構成するとき、その一部に、放熱の目的で小さい孔を多数配列したパンチングメタル*1や金網などの通気性のある構造が適用されます。このような構造ではシールド効果と放熱性能の双方を考慮した設計が必要となります。今回はパンチングメタルを対象として両者の関係を定量的に見て行きます。

図12に示すような金属筐体の正方形の開口部を、波長に比べて十分に小さい円形孔*2を配列したパンチングメタルによりシールドすることを考えます。このときのシールド効果 SEr は次式で与えられます(参考文献(3))。

・・・(3)

ここで、Φ は円形孔の直径、Ip は円形孔の配列ピッチ、L は筐体開口部の一辺の長さです。 式 (3) の右辺第一項は図13に示すように、磁界強度 Hi の電磁波が入射した際に、孔部に分極が生じ、その磁気ダイポールの大きさに比例した強度の電磁波が再放射され、漏洩電磁波となります。磁気ダイポールの大きさpmrは円形孔の場合、次式に示すように直径 Φ の3乗に比例します(参考文献(3))。

・・・(4)

したがって、孔径が小さいほど再放射される電磁波の強度は低下、言い換えればシールド効果は高くなります。

式(3)の右辺第2項は個々の孔を導波管とみなしたときの、遮断周波数帯における減衰を表し、板厚 t に比例し、孔の径 Φ に反比例します。板厚に対して孔径が小さくないと大きな効果は期待できないので、数ミリメートル以下の板厚のパンチグメタルでは、第1項の分極による再放射の影響が支配的です。第3項は筐体開口部形状(正方形)とパンチグメタルの孔形状(円形)の違いを補正する項です。

一方、漏洩電磁波の強度は孔の数に一乗に比例して増加します。したがって、パンチングメタルによるシールド効果は一つ当たりの開口面積が小さな開口を多数設けることが有効であることが分かります。

  • *1 鉄・ステンレス・アルミニウム等の金属板に丸孔・角孔・長孔等の孔を開けたもの。
      孔径、ピッチ、配列を設定した金型をプレス機に設置し、金属板を打ち抜き、孔を開ける。
  • *2 円形孔の直径 Φ 、電磁波の波長 λ として Φλ/6
図12 金属筐体の開口部のパンチングメタルによるシールド
図13 金属板開口部に電磁波が入射したときの分極の発生と再放射のイメージ

図14(a)に金属筐体に設けられた210 mm x 170 mmの放熱用の開口部を孔径の異なる丸穴並列タイプのパンチングメタルによりシールドしたときのシールド特性の実験結果を示します。孔径 Φ は32 mm、16 mm、8 mm、4 mmの4種類、開口率は46 ~ 49%でほぼ一定です。開口率が等しい場合、シールド性能は孔径にほぼ反比例して良くなることがわかります。

一方、前述のように放熱の効果は合計の開口面積に依存します。そこで、上記のパンチングメタル試料について放熱性能を強制空冷時の許容総発熱量をパラメータとして評価しました(参考文献(4))。許容温度上昇を20℃としたときの総発熱量を図14(b)に□で示します。許容される総発熱量は孔径によらず、ほぼ一定となります。以上の結果から、放熱用開口部の電磁シールドを目的とするパンチングメタルは、なるべく小さい孔を多数配列することが良いことがわかります。

  • (a)パンチングメタル試料
  • (b)シールド性能と放熱性能

図14 孔径の異なるパンチングメタルのシールド効果と放熱性能

これまで、円形孔によるシールド効果を見てきました。孔の形状が矩形の場合にはどうなるでしょうか?

孔形状が正方形の場合、同じ開口面積と配列を有する円形孔のパンチングメタルに対してシールド性能はほとんど変わることはありません。一方、「たて」と「よこ」の長さの異なる長方形の孔の場合には、その向きによってシールド効果は異なります(参考文献(5))。その理由は以下のように説明することができます。電磁波が金属板に照射されると、その金属の表面には電流が誘起されます。図15は誘起された電流と長方形の開口の関係を示した図です。図15(a) にあるように開口の長辺と電流の流れる方向が互いに直交する場合(A)、電流は開口端部を迂回するように流れ、両長辺間に電圧が誘起されます。その結果、分極が大きくなり再放射される電磁波は強くなります。一方、開口の長辺と電流が平行となる(B)では電流の流れは妨げられません。そのため、分極の発生が抑制され再放射される電磁波の強度、すなわち、シールド効果はほとんど変化しません。図15(b)はこの様子を実験により示したものです。

実際の機器では様々な成分のノイズが発生するため、筐体の内側に流れる電流の向きを特定することは困難です。したがって、金属筐体の設計においては、このような長方形の開口や長いスリットの適用は極力避けるべきです。

  • (a)金属表面に誘起された電流と長方形開口の関係

(b)シールド効果の実験結果
図15 長方形孔を配列したパンチングメタルのシールド効果

5. まとめ

全3回にわたって金属筐体のシールドの要点を見てきました。第1回では金属板のシールド効果を説明しました。特に、100 ~ 200 kHz以下の周波数帯では、透磁率が大きく表皮深さの小さい鉄が有利であること、一方、数100 kHzを超える周波数帯では鉄の比透磁率が1(非磁性)に近づくため、導電率の高いアルミなどの金属が有利であることを示しました。第2回では、筐体の継ぎ目や接合部からの電磁波の漏洩の特性を説明しました。今回は放熱用の開口部に適用するパンチングメタルなどの開口のある金属板の孔の形状と放熱の関係を紹介しました。

本技術ノートの内容が少しでも金属筐体の設計にお役に立つことができましたら幸いです。

参考文献
  • (3) J. P. Quine, “Theoretical Formulas for Calculating the Shielding Effectiveness of Perforated Sheets and Wire Mesh Screens” Proc. Of the Third Conference on Radio Interference Reduction, Armor Research Foundation, pp. 315-329, Feb. 1957
  • (4) 増田、他「放熱口に用いるパンチングメタルのシールド効果」、1992年電子情報通信学会秋季全国大会、B-213 、1992年9月
  • (5) 青柳、他「矩形孔を有するパンチングメタルのシールド特性」1993年電子情報通信学会ソサエティ大会、B-223 、1993年9月
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