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2025/11/14

【DC-DCコンバータのEMI発生メカニズムとその抑制対策 (2)】DC-DCコンバータ回路におけるEMI発生メカニズム

1. はじめに

「DC-DCコンバータのEMI発生メカニズムとその対策(第2回)」はスイッチング方式DC-DCコンバータ回路におけるEMI発生のメカニズムを見ていきます。

前回(第1回)では、昇圧DC-DCコンバータを搭載したモデル基板のEMI特性を評価し、30~50MHzの周波数帯において、400kHz間隔のEMIスペクトルが観測され、これらは、スイッチング周波数200kHzの奇数次と偶数次の高調波であること、また、40MHz付近の周波数においてEMIレベルがピークを取ることを示しました。今回(第2回)はこの40MHzのピークに着目し、EMIの発生メカニズムを見ていきます。

2. スイッチング方式昇圧DC-DCコンバータにおける電圧の時間波形

はじめに、回路の動作とEMIの関係を知るため、図1(a)に示すDC-DCコンバータの昇圧用コイルとスイッチ(FET)が接続されるポイントの電圧VAの時間波形を観測します。図1(b)は電圧VAの時間波形です。周期は5μs(周波数は200kHz)、スイッチ ”OFF” のではVA=14V、”ON” ではVA=0Vです。“ON”から“OFF”に切り替わる際、リンギングが発生し、±5Vを超える電圧の変動が観測されます。図1(c)にリンギング部分を拡大した波形を示します。リンギングの振動周期はおよそ25nsでこれは周波数40MHzに相当します。このことから、EMI発生の主たる要因はこのスイッチが“OFF”に切り替わった際に発生するリンギングに起因するものと考えることができます。このようなリンギングは一般にLCRの並列回路、もしくは直列回路の共振として発生することが知られています。
なお、電圧VAはコンデンサCoによって平滑化され、安定した電圧Voutを出力します。


  • 図1(a)
(a)昇圧DC-DCコンバータ回路における電圧測定ポイント
  • 図1(b)
(b)電圧VAの時間波形
  • 図1(c)
(c)“ON”から“OFF”に切り替わる際のリンギング
図1 昇圧コイルとスイッチ(FET)が接続ポイントの電圧波形

3. スイッチング方式DC-DCコンバータのEMI特性に大きく関わる「ホットループ」

図2に示す昇圧DC-DCコンバータにおいて赤線で示したFETスイッチを含むループは「ホットループ」と呼ばれます。昇圧に掛かる回路動作を考えると、「ホットループ」には同時に電流が流れることはありません(“OFF”ではスイッチ(SW)に電流は流れない)。しかしながら、EMIが問題となる高次の高調波においては、回路の寄生成分の影響による電流のループが構成され、EMIの発生要因となることが知られています。


  • 図2
図2 非同期型DC―DCコンバータ回路におけるホットループ

4. 回路図に現れない回路の寄生成分

ホットループ構成する回路に関わる寄生成分として図3に示す3つの要素を考えます。

① MOSFETの出力容量COSS

② 出力コンデンサの等価直列インダクタンス(equivalent series inductance: ESL)

③ 回路のループ配線による自己ダクタンス

に着目して共振特性を分析します。


  • 図3
図3 ホットループ構成する回路に関わる寄生成分


① FETスイッチのソース―ドレイン間の寄生容量

スイッチング型DC-DCコンバータではMOSFETをスイッチとして利用します。FETのゲート(G)―ソース(S)間に電圧をかける(ON)とゲート電極の直下にチャネルが形成され、ドレイン(D)―ソース(S)に電流が流れます(図4)。電圧OFFではチャネルが形成されないため、電流の直流成分は流れませんが、ドレイン(D)ーソース(S)間容量CDSとゲート(G)-ドレイン(D)間の容量で構成される出力容量COSSが存在し、高周波成分の電流は流れ続けることになります。ドレイン(D)―ソース(S)間電圧が10V程度の場合、出力容量COSSは数十 ~ 数百pFです。今回、評価した昇圧型コンバータではCOSS=20~40pFの二つのFETを並列接続しています。


  • 図4(a)(a) ゲートーソース間電圧ON
  • 図4(b)(b) ゲートーソース間電圧OFF

図4 MOSFETの構造


② 出力コンデンサCoの等価直列インダクタンス(equivalent series inductance: ESL)

理想的なコンデンサは静電容量(C)のみで表されますが、実際のコンデンサには、抵抗成分(等価直列抵抗ESR(Equivalent series resistance)や電極、リード線、外部端子などの構造に起因するインダクタンス成分(等価直列インダクタンスESL(equivalent series inductance)が存在し、図5に示すような等価回路で表すことができます。本コンバータ回路の出力コンデンサとして用いられているラジアルリード型コンデンサのESL値は一般に10~30nHであり、容量には大きく依存しません。

容量10µF、30µF、100µFのコンデンサ(いずれもESLは10nH)のインピーダンスの周波数特性を図6に示します。EMIが問題となるような数十MHz以上の周波数帯ではコンデンサの自己共振周波数を超えるため、ESLの影響が支配的となることがわかります。


  • 図5
図5 コンデンサ単体の等価回路


③ 閉ループ配線による自己インダクタンス

閉ループ回路にはループの形状や線幅に依存した自己インダクタンスが存在します。矩形ループの自己インダクタンスは近似的に計算することができます1)。今回、評価した回路のホットループは図7に示すようにおよそ20mm×55mm程度であり、自己インダクタンスは150~160nHです。


1) 後藤 憲一、山崎 修一郎、詳解 電磁気学演習、共立出版、1970、pp. 277-278


  • 図6
図6 ESL=10 nHであるときの容量10µF、30µF、100µFの各コンデンサにおけるインピーダンスの周波数特性
  • 図7
図7 ホットループ部の配線、部品実装と矩形ループのサイズ

以上に示した①~③の寄生成分を昇圧コンバータのホットループに適用すると図8(b)に示されるようなLC並列回路が構成されることがわかります。ここで、


CSD=75pF
LESL=45nH
LLoop=155nH

としてこの並列回路の共振周波数 fr を求めると


  • 式

図1に示したリンギングの周波数とほぼ一致し、これらの寄生性分による共振がEMI発生の要因であると考えることができます。こうした寄生成分は、いずれも回路図(図8(a))には描かれていないため、認識することは困難です。このことがEMIの発生源の特定や、その抑制対策を難しくしています。


  • 図8(a)(a) ホットループ部の回路図
  • 図8(b)(b) OFF時の等価回路(高周波帯)

図8 ホットループ部の回路図と高周波帯での等価回路(寄生成分)

参考として、降圧型非同期DC-DCコンバータにおけるホットループを図9に示します。昇圧型コンバータと同様にスイッチOFFにおいて並列共振回路が構成されます。


  • 図9
図9 降圧型DC-DCコンバータのホットループ
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